《MUMEI》
なにか
ある日の朝、羽田はいつものように二年一組の教室へ入った。
相変わらず、教師が入っても生徒たちは好き放題騒いでいる。
少しは静かにしてほしいものである。

そんな中でも、やはり津山 凜の周りだけはまるで別の空間のように、喧騒から取り残されていた。

「はい。静かにー。席に戻ってください」

羽田が言うと、ようやく生徒たちはバラバラと席に戻り始めた。

「はい。ホームルーム始めます」

全員が席に着き、ようやく静かになった時だった。
羽田の声に被さるように、一人の男子生徒が悲鳴を上げた。

「ど、どうしたの?」

「い、今、なんかいた」

「え?」

生徒は動揺しているせいか、声が震えていて聞き取りにくい。

「なんかが俺にぶつかってきたんだって!」

今度はヒステリックに生徒が叫んだ。

「なんかって……」

何がぶつかるというのだろう。
教室にぶつかるようなものなど何もない。
それどころか、今、この教室で動き回っている者など誰もいないのだ。

何かがぶつかるわけがない。

「だから、嫌なんだよ。こいつの後ろの席なんて」

そう言って、生徒は凜の座る椅子を蹴った。
しかし、凜はまるで無反応。

「ちょっと、やめなさい。津山さんは関係ないでしょ」

「関係あるんだよ!こいつがいると……」

生徒は次の言葉を飲み込んだ。
そして、突然叫び始めた。

「く、来るな。なんだよ、おまえ?気持ちわりぃんだよ!」

全く、意味不明である。

羽田には、彼が何をしているのかわからない。

呆気にとられる羽田の前で、彼は真っ青な顔をして、しきりになにもない空間を叩いている。

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