《MUMEI》 女優の芽生え深夜の書斎。 パジャマ姿の静果はゆっくりドアを開けると、中に入った。 額に汗が滲む。 彼女は懐中電灯を照らしながら、あちこちの引き出しを開けて、機密書類を探した。 「あった」 書類を脇に抱えて引き出しを閉める。そのとき、パッと部屋の電気がついた。 「!」 荒っぽい連中がゾロゾロと部屋に入ってきた。 「メイドがこんなところで何やってるんだ?」 神妙な顔の静果。男が彼女から書類を奪う。 「何だこれは?」 6人に囲まれては万事休すか。静果は生きた心地がしない。 「黙ってちゃわかんねんだよ」 「こんなもん盗んでどうする気だったんだ?」 「あたしは…」 「拷問されたいか?」 「やめてください、そういう乱暴なことは」静果は男たちを睨んだ。 「何テメー」 一人がパジャマを掴む。静果は腕を捻ると顔面にハイキック! 「がっ…」 男が倒れた。静果は両拳を構える。 「やるぞこいつ。気をつけろ」 静果は囲まれないように壁を背にした。正面から来る男のボディにフロントキック! 屈んだところを顎に膝蹴り! 「ぎゃあ!」 左足を掴まれた。まずい。右足で蹴ろうとしたが一斉にかかって来たので倒された。 「テメー」 あっという間に組み伏せられた静果。歯を食いしばって弱音は吐かなかったが、パジャマを脱がされそうになったので暴れた。 「待って、待って!」 「裸は嫌か?」 「刃向かわないから乱暴はやめて」 「そうは行かねえよ」 そう言うと男はいきなりボディブロー。 「あう……」 静果は気を失ってしまった。 ぐったりする静果を男たちは別室に運んでいった。 「カット!」 俳優6人は休憩。静果は火竜と塚田と一緒に画面に見入る。 「いいぞ静果。素人とは思えない演技力だ」 「火竜監督、それは誉め過ぎですよ」静果が笑顔で言う。 「静果チャンの演技はナチュラルだよね」 「ありがとうございます」静果は嬉しい顔をして、塚田に頭を下げた。 3人はアクションシーンを繰り返しチェックする。 「空手がダメね」静果が呟いた。 「まあ、プロじゃねえからしょうがねえよ」 「でも、アクションシーンがチャチだと、素人っぽい作品に見えますよね?」 プロの女優のようなセリフに、塚田が感心して言った。 「映画でも、監督がOK出してるのに、俳優がNG出してもう1回やらせてくださいって頼む場合あるよ」 「そういう女優ってダメですかね?」 「ほかの役者は嫌がるだろうな」 「あっそうか」 静果は6人の俳優をチラッと見た。役が役だけに皆柄が悪い。本物のチンピラのようだ。 静果は4人のヤンキー高校生に空き地で囲まれてから、逆恨み恐怖症になっている。 「静果。そのプロ根性は女優の芽生えだよ。凄くいいことだ。だから次から頑張ろう。これはこれでOKにしようぜ」 「はい、わかりました監督」 パジャマ姿で最敬礼は、火竜の中では反則だ。かわい過ぎる。 「静果、アクションシーンにこだわりを持ちたいなら、いいコーチを紹介しようか」 「本当ですか?」静果の顔が輝く。 「女優は凄いからな。少林寺拳法を1年間特訓して映画に臨んだりよう、時代劇だったら、徹底的に殺陣を訓練してクランクインに間に合わせたり。やっぱ、プロは違うよ」 静果は真顔になると、火竜に言った。 「あたしも一応プロです。格闘技の訓練を受けたいです。まあ、1年は無理だけど」 「よし、わかった。じゃあ、怒虎乱を紹介するよ」 「ドトラ、ラン?」 静果がポカンとしていると、塚田が笑った。 「火竜さん顔広いですね」 「オレをだれだと思ってる?」 静果は思い出した。怒虎乱は元女子プロレスラーだ。テレビで見たことがある。 放送席で解説をしていた怒虎乱。場外乱闘ばかりする二人を乱が注意した。 「おい、リング上でやれよ!」 「うるせえ!」 「うるせえだとこのヤロー!」 乱はゴングを持つと、二人に投げつけた。 前へ |次へ |
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