《MUMEI》
曇天と花の街
曇り空だ。
ギリギリまで窓を開けて、通話ボタンを押す。

「母さん?そう、写メ見たよ。俺、青もいいと思うよ。違う違う、ドレス。母さん若いから大丈夫。」

母が籍を入れた……。
離婚して高遠から、小暮に……小暮睦美、なんだか和風な名前だ。

つまり。
俺は小暮光なのだ……
小暮光……
こぐれひかる……


「うふ、ふふふふ、なんか愉しいね。
新しいパァパと撮って送ってよ。嫌なら義母さんに送って貰う。うん。うん、大丈夫、食べてる食べてる。はい、おめでとう。」


「……綺麗な花嫁さんだ。」

俺が通話を終えたのを見計らって独り言を呟く。
ベッドで昨日のあられもない姿のままで自分の携帯を弄っている。
義父が兄に妻の花嫁姿を送ったらしい。
髭が疎らに伸びかけて渋い横顔を盗み見た。


「……おじさん。」


「どうした甥。」

けだるそうに眉間を押している。


「ツンがご飯だって。」

尻尾を振りながら空腹感を主張しに来た。


「食べさせて〜」

動く気配すら無い。


「酷いご主人様ですねー?」

ツンに語りかけると返事をしてくれた。


「ツンはお前が食べさせる係。俺はお前を食べさせる係、お分かり?」


「俺は食べられる係だけでいいのにホラ、ごはんですよ。」

ベッドに潜り込む。


「肉仕舞え。炊きたての白米ぶっかけるよ。」

ご飯の炊けた音が聞こえた。


「怖!DVだ!しかも自分は何も着てないくせに!」


「俺はいいの、芸術だから。」

なんて自信だ。否定はしないが。


「俺も芸術だよ!俺の裸でいくら金が動くと思っていると……」

布団を掛けられた。


「俺の芸術が安っぽく身体を晒け出すな。」

必死に弁解してたのが馬鹿みたいだ。
いつも二人で居る筈なのにどきどきさせてくる。

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