《MUMEI》
笑み
すっかりパニックになってしまっている生徒を前に、羽田はどうしたらいいのかわからない。
困って教室を見回した羽田はようやくこの空間の異様な雰囲気に気付いた。
これだけクラスメイトがパニックになっているというのに、なぜか他の生徒たちは誰ひとりとして彼を宥めようとしない。
それどころか、関わりたくないとばかりに、全員が顔を伏せているのだ。
唯一、凜だけを除いて。
彼女だけは、なぜか、笑っていた。
楽しそうに、そして、誰かに笑いかけているように。
「つ、津山さん?」
羽田が声をかけたその時、教室に隣のクラスの担任、小宮山が駆け込んできた。
「羽田先生、何ごとですか?」
「あ、いや、それが。わたしにもよくわからなくて」
そう答えると、小宮山はとにかく暴れ回る生徒を抑えようと、彼の腕をとった。
「先生!羽田先生も早く手伝って」
「あ、ああ、すみません!」
羽田は急いで小宮山に加勢した。
中学生といえども、すでに力は羽田よりもあるらしい。
パニックになっているだけに、その力は威力を増しているようで、男の小宮山でも、抑えるのがやっとといった感じだ。
やがて、騒ぎを聞いた他の教師たちも駆け付けてきた。
生徒は教師に抱えられて出ていく時まで、必死に何かを追い払おうとしていた。
羽田は出ていく前に、なんとなく凜を見た。
彼女はこちらの様子など気にするでもなく、窓の外を眺めていた。
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