《MUMEI》
普通の重役達
(よ、良かった、普通だ…)


志穂さん達のテーブルを回り


人が途切れたのを見計らい、果穂さんに挨拶を済ませた俺は今


会社の重役達のテーブルに来ていた。


彼等は主に事務経理担当であり、裏方の役割が多いせいもあるが、比較的地味な容姿をしていた。


「営業担当は、もうちょっと華やかだけど、…でも」
「?」


そこで、事務長を勤める鈴木(すずき)さんは、俺の顔と、周囲を見回した。


「あの?」

「あぁ、済まない。今日の出席者程は目立たないなと思って」

「そう、ですか」

「うん」


(そりゃ、世の中皆こんな美形ばっかりだったら怖いよな)


俺と鈴木さんは、顔を見合わせて苦笑した。


「田中君は、大志さんと同じ役割と聞いてるけど…

あの人、ああ見えて超人並に働いていたけど、大丈夫かい?」


嫌味ではなく、鈴木さんは華奢な俺を本気で心配してくれたようだった。


「ダメな時はお願いします」


だから俺も、素直にそう頼んだ。


(絶対誰にも心を許さないつもりだったんだけどな)


俺はいつの間にか、人を頼るのも時には悪く無いのかもしれないと、思っていた。

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