《MUMEI》

放心状態に陥った私は、席に戻ってからもそのままで、気づけばLHRが終わっていた。

優子が駆けつけてくる。

「おめでと、シンデレラ。」

にやにやと笑う優子を睨みつける。

「…バカにしてる?」

「もちろん。」

あっさりと返ってくる返事に腹を立てる。


人の気も知らないで…

「もうやれる自信ない。」

「だーいじょうぶよ。私が指導してあげる。」

「優子演劇やったことあんの?」

「いや、ないけど。」

人を期待させといて何なんだ、まったく…
確かに優子はそういう性格だけどさ、人が悩んでる時にそれはないでしょ…

と、私は心の中で優子に八つ当たりをする。

「ま、でも私と演技する部分もあるから普段どおりやったらいけんじゃないの?」

「もしかして…」

「そ、私継母役だから。」


何、その恐ろしすぎるくらいの適任っぷりは。
ちょっと、これはないでしょ…完璧私が運悪かったとしか言いようが無い。

「あーあ、私も自分に合った役になりたかった。」

そう言うと、優子が私のあごをぐいっと掴む。

「大丈夫よ。怜、前も言ったけど、あんたは自分が気づいてないだけで、かわいいんだから。私は合ってると思うわよ。」

やや上から眺めてくる優子を見ているうちに、顔がほてり始めた。

「優子、フェロモン…」

優子の手をあごからはずす。

「あらら、いつものくせが…」

優子は気にも留めない様子だった。
私はめっちゃ気にとめちゃってるんだけど。
だって、優子指長くて細いし…目、色っぽいし…なんかレズみたいな発言だな
と一人でツッコミを入れる。

「そうだ、どうせさっき聞いてないだろうけど、王子、徳山だったよ。」

その言葉で私は思い切り顔をしかめる。

「うぇー、まじ?…てかそっかー…男と密着しなきゃいけないんだよねー…やだー。」

「いや、これはチャンスだよ。」

優子はにやにやと言う。
こいつ、最近にやにやしまくり。

「まぁ、その分いろいろ気をつけなきゃいけないけどさー…。」

「いろいろって?」

「じゃあ例えば綾音。綾音はクジ外れたから衣装担当なんだけど…気をつけて。」

「う、うん…。」

私には言っている意味が分からない。

そうこうしているうちに、先生が教室に入ってきた。

話し続けるにもいかず、私はしぶしぶ席に着いた。

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