《MUMEI》 体張った傑作静果はたまらずギブアップ。 「参りました」 「はあ?」怒虎乱が睨む。 塚田とカメラマンが見ているのだ。帯をほどかれるのは困る。 「乱さん、教えてください」 乱は仕方ないという顔で立ち上がると、仰向けに寝転んだ。 「逆になれ」 「え?」 静果はさすがにためらう。どんな技が来るかわからない。全く隙がない怒虎乱の上に乗るのは怖過ぎる。 「何してる?」 「あの乱さん、巴投げとかですか?」 「違うよ」下から怖い顔で睨む。 「関節技はやめてください。あたし、たぶん腕弱いんで、折れたら大変だから」静果は腕を触る。 「やる気がないなら帰れ」 「やる気はあります」 「やる気があるふりだけだろ」 静果はムッとした。構えると、勇気を出して乱の上に乗った。拳を顔に振り下ろす。 怒虎乱が思いっきりブリッジ! 「わあ!」 体重の軽い静果は、フワッと浮くように転がった。 「びっくりしたあ」 乱は立ち上がると、静果に語った。 「プロレスラーは強靭にして柔軟な首を持ってるからリングに上がれんだよ。場外で脳天から落とされても平気なのは、首を鍛えてるからだ」 「はい」静果は正座すると乱を見上げた。 「それでも事故は起きる。それだけ格闘技っていうのは危険なんだよ。学生や芸能人がプロレスごっこなんて自殺行為だよ」 プロレスに詳しくない静果は返答に困った。 「あとでブリッジの練習の仕方を教える」 「ありがとうございます」 「これからアクション空手を本気でやるつもりなら、ブリッジで強靭にして柔軟な首を鍛えることだ」 「はい」 静果は立ち上がると、恐る恐る質問した。 「首太くならないですかねえ」照れ笑いを浮かべる静果。 「あっ?」顔が怖い。 「いえ、何でもないです」 二人は向き合う。 「次はパンチの練習だ。打ってみろ」 両手を出す乱。静果は力一杯手を殴った。 「何だそのへなちょこパンチは!」 静果は怒りの表情で乱の手を殴る。 「そんなんじゃ女も倒せねえぞ。男をなぎ倒すんだろう。リアリティねえ作品にしてえのかよ!」 乱は静果の顔に張り手。 「あっ…」 「あじゃねえよ!」 軽くでも乱の張り手は痛い。頭に来た静果も乱の顔を張る。 「全然効かねんだよ!」 ポカポカ頭や顔に張り手が来る。 「痛いな!」 本気で怒った静果はローキックからパンチとムチャクチャに攻撃する。 「来いよほら!」 乱も張り手。痛い。静果は真っ赤な顔で怒虎乱に立ち向かう。キックの連打から顔面へのパンチ。命中した。 「あっ…」 乱が顔を押さえて片膝をついた。まずい。静果は心配して聞いた。 「乱さん大丈夫ですか?」 「やったなこのヤロー!」 「そんな」 静果は道場の中を逃げ回る。乱が追いかける。 「待てこらあ!」 捕まってしまった。 「キャア!」 「何がキャアだ!」 乱は静果の柔道着を掴むと腰に乗せて一回転。すぐさま上に乗り、必殺袖車炸裂! 静果は暴れた。両足をバタバタさせてもがくが許してくれない。 落とされた。 そのシーンがラストカットで動画は終わった。皆拍手。 ここはワイルドSの事務所。火竜と静果と塚田は、完成したばかりの作品を鑑賞していた。 「静果が体張って作り上げた傑作だからな。売れるよ」 「いえいえ、乱さんのおかげですよ」静果は笑った。 「静果チャンのプロ根性には頭が下がるよ」 「塚田さんとカメラマンさんのおかげです」 塚田は笑顔で聞いた。 「最後は本当に落とされたの?」 「まさか。でも本気で来るかなあって凄い緊張した」 「その緊張感がたまらないだろ静果?」 「変態」 いきなり厳しい一言。火竜は焦った。 「火竜さん、乱さんとグルなんでしょう?」静果が睨む。 「まさか!」 「作品つくるためなら何でもアリなのね」 「誤解だよ誤解」 「そうなんですか?」 「塚田まで乗るなよ」 「怖い怖い」静果が真顔で睨む。 (なぜバレた?) 前へ |次へ |
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