《MUMEI》

掃除の時間になった。

私が床を掃いていると、前の方から綾音がやってきた。

「シンデレラさ、怜男嫌いだし、大変だろうけど、頑張って。」

綾音が微笑む。

「うん。」

「…まぁ、男嫌いすぎてなんかしでかすのはやめて欲しいけど。」

ふっと笑った綾音に、私はほうきでアタックする。

「ひっど。」

綾音はキャーっとわざと叫びながら、黒板の方に戻った。


ほら、やっぱり全然いい人じゃん。
なーにが気をつけろだよ…全く、優子はなんでも注意深くなりすぎてるよ。


「お前、攻撃的すぎ。」

頭の上からしゃべっている声が聞こえた。
上を見上げると毎度のことながら徳山がいた。
迂闊だった。こんな奴が私の近くにいるなんて…。

私は2、3歩後ずさりした。

「うっさい。てか、近づくな。」

「おいおい、一応俺たち恋人同士になるじゃん。」

にやにやしながら迫ってくる。
こいつまじうざい。

「…役の上ではね。」

「扱いひどいなー…ま、よろしく。」

そう言って、徳山は私の手を握った。というか、握りやがった。
一気に自分の顔から血の気が引くのが分かった。
私はほうきを放り投げると、そのままトイレに向かった。
徳山の謝っている声が聞こえた気がするが、そんなことはどうでもいい。

トイレに着くと、水で手を洗い流した。石鹸で何度もこすった。
触れられる場所で一番嫌いなのが、顔と手なのだ。


何なの、あいつ…
やっと気が利くようになったかと思ったら、また私に触って…しかも手に。
嫌がらせとしか思えない。
じゃあ、こないだの気の利き方はなんだったの?


私はさっきよりも強く、手をこすりつづけた。

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