《MUMEI》
その男の証明
「どうしたのカナちゃん?今日元気ないみたいだけど…」

昨日から全く連絡の取れない修二の事が気掛かりで、加奈子はバイト中、ずっと溜息ばかりついていた。

「いえ、何でもないんです。すいません…」
「そう?気分悪いんだったら、早上がりしてもいいんだよ?」

優しい言葉を掛けてくれる店長に感謝する。

「有難うございます。でも本当に大丈夫ですから。」
加奈子は無理に笑顔を作って見せた。


個人的な理由だし、我が儘言えないよね…。

でも…

この日は何とか気合いで乗り切れても、これからずっとシュウちゃんと連絡が取れない状態が続いたら…


加奈子はマイナス思考に陥りそうになりながら、客一人いない店内を見回していた。

いつもなら、この時間帯に客がいないなんて事はなかった。

解決したとはいえ、事件の内容がアレだけに、皆警戒しているのだろうか。

する事がなく、ボーッとしていたら、突然自動ドアが開いた。

「いらっしゃいませ〜。」
ダラリとしていた背筋を伸ばしてドアの方に目を向けた。

「あ!」

見覚えのある顔。

「やぁ…」

片手を上げて加奈子に挨拶をする一人の若い男性客。
「あんたはこの間の…」

“無神経男”と言いかけて、加奈子はその言葉を飲みこんだ。
というよりも、失ったといった方が正しいのかもしれない。

「また‥会ったね…。」

口元だけ笑う男の顔は、まるで死人を思わせる程青白く、頬が酷くこけていた。

この前会った時の男の面影は、どこにもない。

唯一、首に掛かったアンティーク調のネックレスが、その男である事を証明していた。

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