《MUMEI》
綺麗な涙
俺をホテルの一室で産み、ナイフの上に置いて消えた母親の話を始めると、途中から鼻をすする音が聞こえた。


(…え?)


下を向いて話していた俺は、顔を上げて驚いた。


音の主は柊で、鼻をすすりながら涙を流していた。


ふと見ると、志貴もポロポロ泣いていて


祐さえも、目に涙を浮かべているのがわかった。


「あのさ…もう少し、話続くけど、大丈夫?」


俺がそう声をかけると


三人は何故か大きく目を見開き、驚いた顔をした。


(な、何だ!?)


「え、…と?」

「あ゛、…づづけで」


鼻声で柊が言うと、他の二人が慌てて頷いた。


「あぁ、うん。じゃあ…」


そして、俺は今も父親と母親がわからない事


忍と忍の父親に育てられた事


産まれた時についたナイフ傷を隠す為に、刺青を入れた事を話した。


(今、『三人に』話せるのはこれだけだ)


話し終わり、俺は息をついた。


(それにしても、…この話、そんなに泣くほど悲しいのか?)


俺はよくわからなかったが、ただ…


俺の為に泣いている、三人の涙は綺麗だと思った。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫