《MUMEI》 . 「片倉さん……?」 松本先輩の呆然とした声が、わたしを呼んだ。わたしは引き攣りまくった顔で、ゆっくり振り返る。 予想通り、先輩は困惑した顔をしていた。 「……彼は……?」 松本先輩は義仲に一度チラッと目をやり、喘ぐように、そう呟く。 わたしは笑顔を作った。 「同じクラスで、隣の席のひとなんです!」 早口に答えると、義仲が爽やかな笑顔でどーも!と会釈しながら、不必要な言葉を付け足した。 「璃子ちゃんの彼氏の、櫻井です」 …………。 一瞬、空気が凍る。 わたしはグルンッと、勢いよく義仲を見遣った。 「サラッと、有り得ないウソつくなッ!」 怒りに任せて怒鳴ると、義仲が、え〜〜?と不満げな声をあげた。 「ホントのことじゃ〜ん!キスだってしたじゃ〜ん!」 瞬間、わたしは石化した。 …………それを言うなぁッ!! . 前へ |次へ |
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