《MUMEI》

昼食の時間になった。この後は、自由行動になり、帰るという予定だ。

私と優子は、木に囲まれたちょうど座れる場所を見つけ、そこで食べることにした。

「いやー、おいしそうだね。このお弁当。」

優子の声が踊っていた。私は優子のお弁当をのぞく。

「ちょっと…それ私のお弁当と似てるんですけど。」

「んー?だっておばさんに作ってもらったんだもんっ。」

「…語尾だけかわい子ぶるのやめてくれる?てか、少しは遠慮ってもんを知ろーよ。」

「えー?だっておばさんいいって言ってくれたしー。」

優子が髪を指でくるくると触る。
本人はかわい子ぶってるつもりだろうが、それが逆により優子の美しさを際立てているようで私は少しいらっとした。
これがいわゆる女の嫉妬というものなのか…。

「あんたさー、おばさん困らせちゃ駄目でしょ。ちゃーんと自分でも作らないと…。」

私は顔を思い切りしかめる。
聞いて欲しくないことをこの人はずばりと…

「いや、たまに作るんだよ、たまにね。」

語尾が少し震えた。優子にばれないようにと、話を続ける。

「てゆーか、そーゆう優子はどうなわけ?」

「ん?いつも自分で作ってるけど?」

優子はさらりと答えた。…言い返せない。

「まぁー私んちはそもそも作ってくれないから仕方ないんだけど。」

そう言って、優子は笑った。その顔はどこか悲しげだった。


悪いことを聞いたかもしれない。


そう思って私はふと気づく。


…そういえば、優子の家族の話聞いたことない。私の話は何度かしてるけど、優子は私をからかうだけで、自分から話そうとしなかった。
優子自身のことについてもそうだ。ほとんどが謎だらけ…優子も辛い思いをしてきたんだろうか…私と一緒で…


急に肩を叩かれた。
殺気を含めて優子を見ると、優子が心配そうな顔をしていた。

「あんた、大丈夫?もしかして今更男嫌いの貧血おきた?」

私は優子に誤解されないようにへらっと笑った。

「ううん。大丈夫。」

「ふーん…ならいいけど。」

優子が再びお弁当にかぶりつく。


優子が話してくれるのを待つしかないかもしれない…


そう思うのに、もう一人の私が口を出す。


いつ?それを優子がいつ話してくれるの?一生話してくれないかもしれないじゃない。


私は頭を抱えた。自分の気持ちが制御できない。こんなだったら、一発で優子にばれちゃう。
もう、どうすればいいか分からない…。

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