《MUMEI》
加奈子の性分
「どう、したの?」

レジに商品を持って来た男に尋ねる。
改めて真近で見ると、魂の半分は既に、天に召されているのではないかと思えた。
それ程男は衰弱していた。
「別に…どうも…しない」
こんな状況下でも平気な振りをする男に、加奈子は心底呆れ果てた。

「はぁ…。どうもしない訳ないでしょ…?あんた死人みたいよ?」

冷たい言葉を浴びせる加奈子だが、本当は心配しているのだ。

ただ、この男はあまのじゃく。本心を伝えたところで、どうせ何も教えてくれはしないと考えた加奈子は、敢えてそんな言い方をした。
もしかしたら、その方が本音を言ってくれるのではないかと思ったのだ。

「死人か…笑えるね、その例え……。」

「あ〜、ほんっと笑える!」

商品を会計する為、下に向けていた目線をチラッと男にやる。


冷たい目…


どこを見ているのかわからない男の顔が目に入った。
「390円で〜す。」

それでも気にしない振りを突き通す加奈子。

ゆっくりとした動作で小銭を手渡された時、男の手が僅かに触れた。


冷たい手…


「ありがと。」

全てが冷たくなってしまった様に思えた男が見せた微笑。
それだけが、微かに暖かみを帯びていた。


「ねぇ、やっぱり…」

もうこれは加奈子の性分だ。弱っている人間を目の前に、知らんぷりは突き通せなかった。


「何があったか知らないけどさ…」


店を出て行こうとする冷たい背中に言葉を被せる。


「私でよければ…」


抱きしめられないのなら、せめて言葉で温まってくれればと思って…


「友達になって。」






男に言葉は聞こえていただろうか。










扉の前で突然倒れ込んだ男を見下ろしながら、何も出来ずにただ立ち尽くす。




慌てて事務所から飛び出してきた店長の声が、妙に遠くに感じた。

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