《MUMEI》

「俺はただ、我が儘とか聞きたいだけで、大事になっているんじゃないだろうかこれ……」

本音が出てきた。


「いいじゃん。友達なら相談に乗っても。」

トモダチ……七生からそう言われて違和感と安心感を得ている俺がいる。


「おかわりください。」

おお。神部の無関心さは清々しいくらいだな。
店員さんに新作のオレンジアイスティーについて質問している程の無関心さだ。


「桜介君、今大切な相談してるんですよ!」

ほんわかしたお嬢様な瞳子さんにしては珍しく叱っている。
やはり、神部の前では年上のお姉さんなのかな?
なんか微笑ましい……。
神部に察知された、目つき怖いよ……。


「二郎はね。鈍いから、気付けてないんだ。相手の踏み入れたらいけない範囲に行こうとしてるんじゃない?」

七生の言葉は刃みたいに胸に刺さった。


「否定はしないけど、踏み入れたらいけない範囲ってなに?」


「皆が持っているものだろうな、それを受け止めるのは深い傷を伴うんだ。」

目を反らさない七生の瞳に吸い込まれそうになる。
真面目な顔の七生は初めて見た。


「七生さんも誰かの傷を受け止めたことがあるのですか?」

瞳子さんは七生にくぎ付けだ。


「受け止めて貰った事はある。」

よく目で会話する、なんて言うけと、七生の目を見ても俺には分からない。
七生の思考、動作、感情、曖昧に浮かぶ二つの目が俺を見つめる。


「経験豊富なんですね。七生さんの彼女は大事にしてもらえるんでしょうね、羨ましいです。」

瞳子さんの七生に対する視線は信仰にも似ている。


「大事に、ね、出来るかな?そうそう、二郎は彼女には大袈裟なくらいに表現してやれよ?
二郎は伝わりにくいからな。応援してやるからさ。」

七生にしては友好的だ。
なんだか大人。

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