《MUMEI》 いざこざ〜歩視点〜 「休憩終わり!」 キャプテンの声が体育館に響き、俺は立ち上がる。 その時、ふと鋭い瞳で小湊さんを睨む美早希の姿が目に入った。 初めて見る美早希の表情に驚きながらも、キャプテンの指示に従い練習を再開する。 ふぅ〜あちぃ! 部活も終わり、タオルでびしょびしょの髪を拭きながら部室へ向かう。 部室に着き、素早く着替えを済ませ他の部員とあいさつを交わし、部室を後にする。 夜の風は少し冷たく、心地良い。 鼻歌を歌いながら体育館の前を通り過ぎようとした時・・・ 「どういうつもりなのって聞いてるの!」 荒々しく叫ぶ女の子の声が耳に入った。 俺は驚きながら、声のした体育館裏をこっそりと覗く。 「何のこと?」 先程聞こえた荒々しい声とは別の落ち着いた冷たい声が耳に入る。 どちらも聞き覚えのある声で、俺はその人物達を確認しようと目を細める。 出て行って確認してしまえば早いが・・・簡単に出ていける雰囲気ではない。 冷たい雰囲気が数秒間流れ、荒々しい声の主がまた声を上げる。 「何のことってしらばくれんなよ!」 興奮しているようで、言葉遣いはお世辞にも綺麗だとは言えない。 「美早希には〜関係ないでしょ?」 甘さを含んだ口調だったが、どこか冷たさを感じる言葉に 荒々しい声の主――美早希は、相手の女の子を突き飛ばした。 俺は無意識のうちに、体育館裏に飛び出す。 突き飛ばされた女の子が尻餅をつく音は、荒々しい声によってかき消される。 「関係なくなんかない!もし、 ・・・・・・歩?」 声を張り上げていた少女――美早希は、俺の存在に気づき短い沈黙の後、確認するように俺の名前を呼んだ。 俺は、どうしていいか分からなかったが取り敢えず、地面に座っている少女――小湊さんに手を差しだした。 小湊さんが立ち上がったのを確認すると、俺は美早希をじっと見る。 美早希はきゅっと口を結んでいるが、怯む様子もなくこちらを見ている。 「美早希・・・?」 俺の声と同時に美早希はこちらに向かって歩き出した。 「・・・・・もし傷つけるようなことがあれば、こんなんじゃ済まないから」 ちょうど小湊さんの隣をすれ違う時に、美早希はボソッと言葉を吐き捨て去っていった。 前へ |次へ |
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