《MUMEI》
お母さんとの思い出
   〜麗羅視点〜


・・・・・・・・!


温めたらチョコレート溶けるかもっ!と思いついた私はさっそく鍋を火にかける。


あっいい感じ・・・!


鍋の中身と本の写真を見比べながら、私は胸をなで下ろす。


火にかけたまま木べらで混ぜていると、焦げた臭いがし始めたので慌てて鍋を火から下ろす。


せ・・・・セーフかな?


少し焦げてしまった鍋を見つめる。


大丈夫大丈夫!


自分に言い聞かせながら本を読み、次の動作にとりかかる。








勘違いと失敗を繰り返しながら、なんとかガナッシュと生地を作り終えた。


後は型に入れて焼くだけ!


え―と型はどこにあったっけ・・・?


私はお菓子作りをしたことがないが、小さい頃にお母さんがよくお菓子作りをしていたので器具は揃っている。


ピアノの練習が終わるといつも出来立てのお菓子が待っていた。


"美味し〜い!"


私がそう言うと決まってお母さんは優しく微笑んでこう言っていた。


"麗羅のために愛情込めて作ったんだから当たり前でしょ"


あぁ・・・懐かしいな。


お母さんのことをこんなに穏やかな気持ちで、思い出せる日がくるとは思わなかった。


私のために愛情を込めて・・・・・か。


その言葉が嘘じゃなかったらいいのにな。




初めてのお菓子作りは、分かんないことだらけで失敗も沢山したけど


・・・楽しかった。


大切な人のために何か作るのっていいなって思った。


お母さんも同じ気持ちだったのかな?


そうだといいな・・・。


生地を型に絞り入れ、ガナッシュを入れる。


その上にまた生地を絞り、温めておいたオーブンに入れ焼く。


オーブンの中を覗きながら願う。


"美味しくなぁれ"って何度も何度も――栄実の元気に少しでも繋がりますように。

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