《MUMEI》
お願いの内容
「…お願い?」


首を傾げる祐を見て、俺は無言で頷いた。


「何?」

「…俺が、一年の時、お前の前で倒れたよな」

「あぁ…保健室での事だよね?」


(さすがにまだ覚えてるな)


だとすれば、俺が言った単語もまだ覚えている可能性が高い。


俺は、深呼吸をして


祐に、頼んだ。


「倒れた時に言った名前を」


旦那様の名前を


「誰にも言うな。というより、忘れろ」

「お願いじゃなくて命令になってるぞ」

「…お願い、します。忘れて、下さい」


茶化すような祐の言葉に、俺は即座に訂正した。


「そんなに、也祐が大事なんだ」


(お前が呼ぶな!)


俺が呼びたくても呼べない


愛しい人の名前を。


叫びたくなる衝動を


目の前で笑う『男』を殴りたくなる衝動を必死に堪えて、俺は頷いた。


「いいよ。忘れてあげる」

「ほ、本当か!?」


あっさり返ってきた祐の言葉に、俺は過剰なほど反応した。


「近所迷惑だよ、祐也」

「そんなのどうでもいい! 本当か!?」


深夜だということも、隣で屋代さんが寝ている事も、俺にはどうでも良かった。

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