《MUMEI》

私の尾行は下手くそで、俊敏な武丸先輩にはあっという間に巻かれてしまった。

先輩は律義に私を待っていてくださって、更に私を覚えていた。私は武丸先輩の人差し指に夢中で蒙昧にしか相槌を打っていなかった、そもそも私達は大した会話もせずにふらふらと散歩に出掛けるのだ。



「秘密の場所を持つといいよ、イイオンナになる。」

武丸先輩と、私は秘密の場所に一緒に秘密を埋めたのだ。
私は母さんの大切にしていたお祖母ちゃんの形見の鏡を、武丸先輩は……

私達は秘密を埋めた、私は知っていたのに気付かないフリをしていた。
先輩が、片手に怪我をしていたこと。
先輩が、私を好きだったこと。

目を背けずに、思い出さなきゃいけない。

本当は武丸先輩がカッコイイという外にも表現があったのだ、私が逃げ続けていたせいでしっぺ返しが来た。
武丸先輩の化粧がいわゆるパンクというもので濃かったのは、殴られていたから。
誰にとは、問えなかったけど……だって私を好きなら逃げると思っていた。
消えてしまうなんて思いたくなかった……。

「小指は私の小指なの?武丸先輩みたいに夢か現実か分からなくならない?」

小指の間接を曲げてみた。


「俺は俺だ。此処に居ないと俺が動けないだろ、さっさと武丸先輩とやらを探せよ。」

いつもの憎まれ口が妙に心地好い。
二人で決めた目印、三本並んだの1番細い電柱から真下の土手に埋めた、地面を掘り進める。

お菓子の空箱は、少し劣化している。
中には手紙だけ、私の埋めた鏡は無くなっていた。

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