《MUMEI》

昼食を食べている間、沈黙が続いた。
沈黙を突き破るかのように、優子が言った。

「私トイレ行って来るわ。ちょっと回っといてもいいよ。ただし、その時は連絡いれてね。」

優子は組んでいた長い足を元に戻すと、スタスタと歩いていった。

私はお弁当を片付けると、その場を去った。
ただひたすら歩き続けた。…なんだかモヤモヤする。

ゴッホの星月夜のところで私は立ち止まった。
この作品はゴッホが神経発作で精神病院に入院していた時に描かれた晩年期の傑作だ。
ゴッホはこれをどのような思いで描いたのだろうか。私と同じようにゴチャゴチャとした気持ちだったのだろうか…。
私は渦巻く暗雲に惹かれて、目が離せなかった。
そう思っているうちに、優子にメールをしていないことに気づいた。携帯を鞄から取り出し、打ち始める。

私の名前が呼ばれた。
振り返ってみると…
成田がいた。

「お前、そんなとこでボケーッとして何してんの?」

私は緊張していた。だが、成田にはそんな様子もなく、私は少し不愉快な気分になる。

「ボケーッとなんかしてないし。私、この絵好きなのっ。」

「ふーん?」

成田は絵の前までやってきた。

「ゴッホか…そういや見たことあるって思ったわ。」

にやりと成田が笑う。
私は戸惑った。

「そういや、今日ご主人様いないわけ?」

「ご主人様?」

「そ、お前よくひっついてんじゃん。」

私は顔をしかめる。

「もしかして…それって優子のこと。」

「もしかしてもなにも、あいつしかいないだろ。」

「ちょっと待ってよ。私がなんかMみたいじゃん。」

「違うのかよ。」

成田は私が怒り始めるのをいいことにからかってくる。

「うるさいっ。てか、そっちこそ愛しのダーリンいないわけ?」

「は?ダーリン?」

「徳山よ。いつも一緒にいるでしょ。」

「いねーよ、いつも一緒になんて。まぁ、今日は自由行動は一緒に行動するかも知れねーけど。」

成田は意外にも、怒らなかった。
いつもはこんな感じじゃない…。

パタパタという足音が聞こえてくる。

「ちょっとー、怜。あんたなんでメールしてくれないのよっ。探したじゃないっ。」

優子が息を荒くしながらやってくる。
私は手元にある携帯を見た。

やばっ…打ち途中だった…

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