《MUMEI》
水着はNG!
静果は、夏希をスタジオに連れてきた。火竜と塚田が事務所で面接をする。
やや緊張する夏希の隣で、静果がリラックスさせようとギャグを飛ばした。
「夏希。社長は外見は怖いけど、基本的にはヤクザだから」
「おい!」火竜は笑いながら怒った。「何のフォローにもなっていないぞ」
「塚田さんのギャグですよ」静果も笑う。
「塚田そんなこと言ってんの?」
「いえいえ、アレンジしすぎだよ静果チャン」
「キャハハハ!」
一人で爆笑する静果。しかし夏希は笑っていなかった。
火竜が質問する。
「演劇部だったの?」
「はい。好きなんです、お芝居が」
「いいねえ。で、プロの女優を目指していると」
「はい。やるからには、演技派女優と呼ばれたいです」
「いいねえ!」
火竜が満足の笑み。好感触に静果もニコニコしている。
「何で空手を始めたの?」
「護身術もありますけど、女優になったら武器になるかなと」
「なるよ」
火竜は履歴書に目を落とす。
「基本的には採用だよ」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げる夏希の隣で、静果も満面笑顔だ。
「夏希チャン」
「はい」
「女優目指しているくらいだから、コスチュームは何でもOKでしょ」
「たとえばどんな?」
心配そうな表情で聞く夏希に、火竜は普通に答えた。
「たとえば水着とか」
「いえ、水着はNGです」
夏希に即答されて、火竜は思わず静果を見た。
「水着にならなくたって、いくらでも役はあるでしょ」
「もちろん」
トーンが一気に下がったことを悟られないように、火竜は咳払いしてから話を進めた。
「水着がダメなら、当然下着も…」
「NGです」
「バスタオル一枚は?」
「NGです」
「レースクイーン」
「NG」
「ミニ浴衣」
「NG」
「メイド」
「NG」
「セーラー服」
「NG」
「アハハハ、百人一首みたい」
笑って誤魔化す静果を、火竜は睨んだ。
「笑いごとじゃねえよ」
「ごめんなさい」静果はまだ笑っている。
「じゃあ、ブルマ」
「NG」
「男のロマン、ワイシャツ上だけ」
「NG」
「ヤらしい」静果が睨む。
火竜は額に汗が滲む。
「パジャマ」
「NG」
「え、パジャマも?」火竜が焦って聞き返した。
「あ、パジャマってどんなですか?」夏希が聞く。
「普通のパジャマだよ」
「まじめなパジャマ」
「塚田。じゃあ、不真面目なパジャマってどんなパジャマだよ?」
「キャハハハ!」
「笑い過ぎだよおめえはよう」
「ごめんなさい」
皆楽しそうだ。静果が完全に二人と溶け込んでいる。夏希は羨ましく思った。
「あ、パジャマは大丈夫です」
「良かった。着るもんないもんね」
「私服でいいでしょ、AVじゃないんだからあ」静果が怖い顔で睨んだ。
「AVも撮るんですか?」
「撮らない撮らない!」3人で大合唱。
「はあ…」
火竜が質問を続けた。
「ナースは?」
「大丈夫です」
「浴衣は?」
「大丈夫です」
何とかなりそうだ。
「じゃあ、静果と夏希チャンの歓迎会をやろう」
「ありがとうございます」
夏希はルックスも良く、礼儀正しい。火竜は心底気に入った。
翌日から早速撮影開始。まずは原作・主演、冨田夏希の『夜のコインランドリー』だ。
花の女子大生・夏希が男子高校生をからかう。怒った高校生を夏希がなだめる。
そのとき、不良っぽい20代の男たちが、大きい声で喋りながらコインランドリーに入ってきた。
「最近いい女いねえなあ」
5人もいる。無遠慮にどやどやと入ってきた。高校生は洗濯機から乾燥機へ服を移す。
「お、いた」
「何が?」
「いい女」
「ホントだ」
高校生は緊張した。夏希はすましている。
「お姉さん、こいつ彼氏?」
「何!」
「何お前やんの?」
「やめなよ」
夏希は高校生の腕を掴んだ。
「彼氏じゃないよ。ここで初めて会っただけ」
高校生は悔しい顔で俯く。夏希は油断なく身構えた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫