《MUMEI》 「送りましょうか?」 瞳子さんにやはり奢ってもらった、甲斐性無いな。 おまけに送り迎えまで。 「お願いしていいですか。」 外はすっかり暗くて、この間のこともあり、一人では帰りにくい。 「俺が送る。」 七生が割って入って来た。 「いや!」 「いや?」 七生の片眉が僅かに吊り上がった。 「俺と帰りますか?今から少し用事あるんで兄さんと別の車で帰るんです。」 助け舟、神部に縋り付きたくなる。 見下すような視線さえしなければ惚れていた。 「おーちゃん!」 「お構いなく。」 兄にも容赦無い。 七生が苦虫を噛んだような顔をしていた。 「な、七生、ありがとうね話聞いてくれて。」 軽く声をかけて、手を振ると黙って振り返した。 奴にしては妙に大人しくしていたせいで犬を捨てる心境だ。 「ふん、そうやってまた毒牙撒いて」 え、虫扱いなんだ? 神部の方が毒は撒いているけれど、どうなのかそこのところ。 「……ま、まあ助かったよ。ありがとうね。」 やっぱり、神部の家も外車だ、なんか内装までカッコイイ。 これがセレブというものなのか……。 「そのまま家に向かいますからね。」 「へへ、なんか悪いな。」 変な笑いが漏れる。 「兄さんが松代と上手くいくようにするならなんだってしますよ。」 「どうしてそこで七生が出るの。変だ。」 「長男が父さんの跡目になるのは当たり前、事業家の松代家と良い家庭を築けば安泰。」 「言い訳みたい。」 あ、言っちゃった。 「何も知らないだろアンタは。」 何も知らない…… 「そうだよ、知らないけど七生の気持ちや意思なら多分、神部より知っているからな!瞳子さんのことだってきっと友達だろう?」 出任せな上に願望だ、本当は不安で仕方ないのに。 「俺だって、血の繋がった弟だ!」 「……あ、やきもち?」 かわいいな、神部。 七生のこと兄として慕っていて、俺に突っ掛かってきたのか? 「憶測をすぐ口にするのは感心しない!」 図星なようで急にムキになる。 じゃあ、神部は自分の好きな女性と兄がうまくいくようにしたかったんだ。 前へ |次へ |
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