《MUMEI》
ビターチョコレート?
    〜海視点〜


今日もいつもと同じように起き、支度をして学校に向かう。


教室のドアの前まで来ると麗羅チャンと北川の声が耳に入る。


「麗羅にも出来ないことあるんだね」


イタズラっぽく笑う北川の声の後に、麗羅チャンの声が続く。


「で・・・でも、初めてにしては良くできてるでしょ?」


何の話だろうっと疑問に感じながらも教室のドアを開ける。


俺に気づいた麗羅チャンは何か包みを持って俺の側まで駆け寄る。


「海、おはよう。


海に栄実が甘いもの好きって聞いたから、作って来たの。


これ海にも、良かったら貰って?」


挨拶をした後、説明をしながら穏やかに微笑む麗羅チャン。


「サンキュ」


俺はお礼を言いながら、包みを開ける。


「食べてもいい?」


麗羅チャンに確認すると、麗羅チャンはコクリと頷き不安そうに俺を見上げる。


「温めて食べるって本には書いてあったんだけど・・・冷めてても食べれると思う」


麗羅チャンの説明を聞きながら、俺は包みから取り出したチョコレートケーキを口に運ぶ。


「ん!うまい!」


俺の素直な感想に麗羅チャンは、本当?っと目を輝かせる。


「中にチョコレート入ってるけど、甘くなくて美味しい!


ビターチョコレート使ったの?」


俺のその言葉に、麗羅チャンは口を閉ざした。


「・・・・・・・・・・・。


・・・・・・・チョコレート焦がしちゃったんだ」


しばらくの沈黙の後、麗羅チャンがポツリと言葉を零した。


「・・・あっそうなんだ。




でも美味しいって本当に思ったよ」


麗羅チャンの言葉をフォローしようと口を開いたが、麗羅チャンの表情は変わらなかった。


「ありがとう。


・・・・・あとこれ歩にも渡しといてくれる?」


麗羅チャンは俺に渡した包みと同じものを取り出し、俺の前に差し出す。


「いいけど、自分で渡さないの?」


麗羅チャンの歩への態度を見て、この質問をするのは少し意地悪かなっと思ったが聞くことにした。


「歩に酷いこと言っちゃいそうで怖いから」


麗羅チャンは、今にも壊れそうな笑顔を浮かべ弱々しい口調で言う。


麗羅チャンに酷いこと言われるより、麗羅チャンが側にいないことの方が歩には堪えるだろうなっと思いながらも、それは口に出さなかった。


「分かった。歩には俺から渡しとくよ」


そう言い、俺は麗羅チャンの手から包みを受け取る。

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