《MUMEI》

取り外した腕
その手首へわざわざ親指を噛み斬って流させた血で何かを描きはじめる
人形師が術を施す際に使用する術印
描いて終わると同時、左腕は再生成されていた
ソレをサキはまるで服を羽織るかの様な気軽さで身体へと繋げ直していた
「使っていくうちに朽ちていくのでたびたび作り直さなければならないのが難儀ですが、それを除けば便利なモノですよ」
「そう、なのですか?」
「……この程度のことなら、あなたも御存じの筈だ」
「私がですか?何故?」
解る筈もない、と首を傾げるラングの様がみるに白々しく、そして不愉快で
サキは改めてラングへと身を翻すと、懐から小型のカードナイフを取って出し
周りには見えないようにラングののど元へと突き付ける
「……先程、マリア嬢にあなたが造ったという人形を見せて戴きました。いい腕だ。流石人間一匹造り出すだけの事はある」
「人を、造る?私が?何を馬鹿な……」
「……あなたは先程、私をすぐれた人形師だと絶賛して下さいましたよね。ならば、その私が気付かないとでもお思いか?」
騒動にならない様にとの配慮で会話は全て小声で
更に、確信をついてやる
「申し訳ないが、少々あなたの事を調べさせて戴きました。」
「調べた、だと?一体何を……」
「マリア嬢の事ですよ。半年程前に事故に在って亡くなっていますね。その彼女が何故今此処にいるのか。御説明願えますか?」
「な……!」
サキの追及に言葉を失うラング
更に追及は続き
「あれは、人形ですね。魂を持つ」
ラングは返す言葉を段々と失っていく
「……今日は招いて下さって本当に助かりましたよ。わざわざこちらから出向く手間が省けましたからね」
有難う御座います、と皮肉めいた笑みを浮かべれば
ラングの顔から血の気が一気に引いていく
だがサキはソレに構う事もなく更に追い討つように
「御心配無く。私では貴方を捕らえる事も裁く事も出来ない。私の仕事は事実を明白にすることのみ。後はあなたがどうなろうが知った事じゃない。では、失礼」
一方的に言の葉を連ねまた踵を返す
その背後に撃鉄を入れる微かな音
後ろをついて歩いていた筈のコウの腕をラングが突然に掴んでいた
まるで人質だと言わんばかりにコウのこめかみへと銃口を突き付ける
「何の、真似ですか?」
だがサキは慌てるそぶりをさして見せる事もせず
ラングからの反応を待つ
「近づくな……。お前などに――」
声を震わせ何かを訴えようとするラング
動揺する余りまともな言葉にならず、何一つ要領を得てはいない
その様にサキは深々しい溜息だ
「こうなってしまうという考えは露ほどにも無かったようですね。私も一応は人形師、気付かれないと本気で考えていたのならば貴方は本当の馬鹿ですよ」
「黙れ、黙れぇ!!」
叫ぶと同時、銃口がコウから外され直接サキへと向けられる
鳴り響く発砲音
銃に撃ち抜かれてしまうまでの短すぎる瞬間に
サキは未だ流れる血で己が銃に術印を手早く描く
血液が一滴、床へと落ちた
次の瞬間
銃はその形を変化させ、サキの前へと壁を成した
放たれた銃弾の全てはソレに阻まれ、小高い金属音を立てながら床へと落ちていく
役目を終えた壁は土とその姿を化し崩れ、その砂埃に身を潜ませていたサキがラングへと銃口を突き付けた
「わ、私を殺すか?そんな事をすればお前は……」
動揺する余り脅迫する事の葉も随分と心許無い
その様は余りに滑稽で
サキは嘲笑に肩を揺らした
「御冗談を。貴方如き殺した位で人生終わりにはしたくありませんよ。いい訳なら、警察に行ってから存分にすればいい」
銃を収めながら思い切り嘲笑を浮かべて返す
無様にも崩れ落ち座り込んでしまったラングを見下してやれば
「か、帰れ!」
相当に動揺している様で声が上擦っていた
その惨め過ぎる様にサキは再度肩を揺らす
「勿論そうさせて戴きますよ。私も、こういう席は得意ではないもので」
失礼、と笑みを浮かべサキはコウを引き連れその場を後に
周りからの視線を気に掛ける事もしないサキへ
背後からこうの呼ぶ声が掛る
「な、所長。もういいのかよ?」
「何が?」
「まだパーティ途中だろ?帰ってもいいのか?」
訝し気に問うてくるコウ
サキは一瞬の間の後、彼の頭へと手を置いてやりながら

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