《MUMEI》
アクション
いかにも素行が悪そうな男たちだ。夏希と高校生は緊迫していた。
「彼女、名前なんて言うの?」
「何で?」
「いいから」
馴れ馴れしい男を高校生が睨む。
「何ガンたれてんだよテメー」
「何!」
「やめなさいって」
夏希は高校生の耳もとで囁いた。
「お願いだからやめて。あたしのせいであなたに怪我されたらたまらない」
「でも」
「あたしは大丈夫だから」
そう言うと夏希は、男たちの前に出た。
「あなたたち、洗濯しに来たんじゃないの?」
「洗濯なんか明日でいいよ。それより俺たちと遊ばね?」
「1対1を5回、それとも5対1?」
夏希のセリフに皆驚いた。
「わかってんじゃん、この子」
「俺は6Pがいいな」
「俺も6P!」
夏希は軽蔑の眼で入口にいる男に首相撲。次の瞬間、顔面膝蹴りでKOした。
高校生もほかの男たちも蒼白になった。
「何やってんだテメー!」
と言う男のボディにフロントキック!
男は入口の段差に足を引っ掛けて転倒した。
外に出る。
「ふざけろ!」
前から来る男の手首を掴んで捻り、後ろの男にバックキック!
手首を離して右フック顔面!
横から男がタックル。夏希は首筋にエルボー。しかし強引に倒された。
(しまった!)
まだ立てる2人も加勢する。力では勝てない。夏希はうつ伏せにされ、上に乗られ、腕を捻られた。
「イタタタタタ」
「テメーよくもやったな」
小指を掴まれる。夏希は暴れた。
「待って、指はやめて!」
「じゃあ、言いなりになるか?」
「え?」
小指を反らせる。
「わかった、わかった!」
慌てる夏希に満足の笑みを浮かべる男たち。その頭部にコインランドリーのイスで一撃!
「ぎゃあああ!」
高校生が助けてくれた。チャンス。夏希は起き上がると怒りを込めて右フック、左ストレート、右ハイキック!
「貸して」
夏希は高校生からイスを奪うと、最後の1人にガツンと顔面殴打!
夏希はコインランドリーの中に駆け込んだ。
「何してんの?」
「洗濯物」
急いで自分の袋を掴み、高校生の服をしまうのも手伝だった。
慌てて服を袋に突っ込む高校生。隣で夏希はシャツを畳んでいる。
「何やってるんですか!」
「畳まなきゃ」
高校生は強引にシャツを奪って袋に突っ込むと、コインランドリーを飛び出した。
「あ、待てテメーら」
頭を抱えて起き上がる男たち。夏希と高校生は走って逃げた。
「君、助けてくれてありがとう」
走りながら話す。
「お姉さん、僕に空手を教えてください」
「自分で習いなさい」
最高の出来映えに火竜は満足した。塚田も夏希のナチュラルな演技力に舌を巻いた。
一緒に演じているのは、いずれも劇団の人間。つまり無名でもプロだ。しかし全く見劣りしない。
静果と夏希の共演もすぐに実現した。
西枝静香原作の『更衣室』だ。
サッカー部のマネージャーをしている静果と夏希は、サッカーのユニフォーム姿でタオルを絞っていた。
そこへ柔道部の連中が通りかかる。
「お、静果、相変わらずいい体してんな」
「うっせー!」静果は本気で怒る。
「今度一発やらせろよ」
「何!」
ムキになり、拳を握りしめて睨む静果。しかし柔道部の連中はゲラゲラ笑いながら行ってしまった。
「ホント頭来るんだから」
「静果はモテるね」夏希がポツリと言った。
「冗談じゃない、あんな連中にモテたって意味ないじゃん」
怒りがおさまらない静果に、夏希が話題を変えた。
「静果って口固いよね?」
「何何?」静果が興味津々の笑顔に変わる。
「あたし、好きな人ができたの」
「だれだれ、あたしメチャクチャ口固いよ」静果が迫る。
夏希は俯き、ためらっていたが、意を決して言った。
「あたし、拓也先輩が好き」
サッカー部の拓也先輩。静果の顔から笑みが消えた。
「静果?」
「え、夏希、知らなかったの?」
「何が?」
「あたし、付き合ってるの」
「え?」

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