《MUMEI》 「賢史はな、そりゃ才能はあるよ。」 思考回路がおかしくなった俺を気遣いながら、一希は静かに話し始めた。 「でもな、決して楽して今に至るわけじゃない。」 どこかで、嘘だろ!?と、声が上がった。 「嘘じゃない。」 彼はキッパリと言い放った。 「現に俺は幼いころから賢史を見て来たんだ。 賢史はな、幼いころ……。」 「言うな。」 自分でも驚いた。 こんなドスの利いた、低い声が出るなんて…。 「昔のことだ。 もういい。」 「す、すまん。」 一希は申し訳無さそうに俯くと、再度その場に座った。 静寂に包まれた、なんとも言い難い沈黙が続く。 前へ |次へ |
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