《MUMEI》 「優子、おめでとうって何が?」 おめでたいことは何一つないんですけど… 「とぼけないでっ。あんたやっと男好きになったのね。」 私はしかめっ面で優子を見る。 「好きになった記憶すらないんですけど。」 優子がため息をついた。 「自覚していないパターンか…いーい?怜、あんたは成田のことが好きなの。」 私は心臓が止まりそうになった。 「ちょ…何言って…」 「だって私が成田に制裁を加えようとした時、怜止めたじゃない。」 「それは…同じ思いをしている奴だから多少心配で…。」 私は焦った。どんなに落ち着こうとしても落ち着けない。 「ほんとにそれだけ?」 優子がゆっくりと問いただす。 「ほんとにそれだけなの?私が成田の肩に触れたのが嫌だったんじゃないの?」 「そ…そんなこと…。」 心臓の鼓動が早くなる。 「誰にも触らせたくないって思ったんじゃないの?」 優子に言われて初めて気づく。 「そう…かもしれない。」 「うんうん。それってさ、好きっていう感情なんだよ。」 「好き…?まさか、男嫌いの私が成田に恋するわけないじゃん。しかも成田ときたら女嫌いだし…。」 そう、そんなわけない。そんな私が成田が好きみたいなこと… 私は成田が…きら… ううん… 「好き…かも。」 優子の顔がぱっと明るくなる。 「でしょ?おめでとー。これで男嫌いもなおるし、素敵な高校生活遅れるよ。」 「ううん、無理だよ。だって成田私のこと好きじゃないし…そもそも男嫌いはなおらない…。」 絶対に男嫌いがなおるわけない。だって、あの記憶が忘れられないから… 優子が私の頭をなでた。 「なおるかなおらないかは別としても、怜進歩したよ。良かったねっ。」 こんなに素直に喜んでくれる人、今までいなかった。 顔がかーっと熱くなる。 「ありがと…。」 そう言って、私も優子にハグをした。 前へ |次へ |
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