《MUMEI》
二回目の部屋
凄まじい叫び声を聞いた加奈子は、キッチンから飛び出した。

「どうしたのっ!!?」

駆け付けた場所は自分の寝室。
女の子らしい、可愛くメイキングされたベッドの上には、激しく息を切らした男がいた。

「どっか痛い?」

加奈子は男の肩に手を掛け、心配そうに顔色を伺う。
体が汗で少し湿っているのがわかった。


「ハァ、ハァ、ハァ…」


男は肩で息をしながら、呆然と自分の両手を眺め、息が整うとようやく言葉を発した。

「夢…」

「ゆめ?」

「夢を‥見たんだ…」
「なんだぁ…ビックリしたじゃない。」

加奈子は力が抜けた。

きっと変な夢でも見て、ただ唸されただけだろう。

加奈子自信、何度かそういう経験があったので、特に心配はないだろうと思ったのだ。



「ここは確か…」

辺りをグルリと見回す男。


見覚えのある部屋だった。

「あんたが初めて家に来た…っていうか、運ばれて来た部屋だよ。」
「あぁ、やっぱり。」

「今日で二回目。」

加奈子は男が倒れてから、今に至るいきさつを聞かせた。


「ほんと、あの後大変だっんだから!でも、安心して。救急車は呼んでないから!」

一度それは拒否されていたため、今回もきっと嫌がるだろうと思い、電話しようとしていた店長を止めたのだ。

「じゃあ、どうやってここまで?」
「運んできたわよ!私がね!!あ〜重かった!」

“重い”なんて嘘だった。痩せ細った体は、思った以上に軽かった。

軽すぎで涙が出た。


「バイト中なのに、よくOKしてくれたね、店長さん。」
「友達ですって言ったから…」

男はそれを聞くと黙り込んでしまった。
加奈子も、男の反応を見るために何も言わない。



「店長さんには何て?」

暫くしてから、やっと男が口を開いた。

「高熱で倒れたって嘘付いといた。実際原因わかんないし…」


反応なしか…


加奈子は質問にだけ答え、もう敢えて“友達”の事には触れない様にした。


「シャワー浴びてきなよ。汗、気持ち悪いでしょ?」

「うん。」

「着替え、用意しとくから。って言ってもTシャツ位しか出せないけど…」


せめてシュウちゃんの服があったらよかったんだけど。


「ありがと。上だけで十分だよ。」

男は軽く笑うと、浴室へと入って行った。

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