《MUMEI》
二 卯月の頃
 ──卯月。庭園には、淡く色付いた花が咲いている。




 紫苑として何不自由なく振る舞っている桜は、独り蹴毬に興じていた。




「腕を上げられましたな」




「ん‥、白栩(はくう)‥か」




 桜が振り向くと、そこには紫苑付きの薬師がいて、目を細めて自分を見ていた。




「ご一緒させて頂いても宜しいですかな?」




「ぁぁ、構わん。丁度──独りでは詰まらんと思っていた所だ」




 桜が答えると、白栩は彼女の前に来て、蹴り上げられた毬を器用に受け止めた。




「ところで──白栩は何をしに来たのだ?」




 桜が言うと、白栩はきょとんとした。




「お忘れですかな‥?」

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