《MUMEI》

 一方、紫苑はというと。




 彼は、日記を認めるのに苦戦していた。




 紫苑は、草子こそ読んではいたものの──仮名文字を使い慣れていないのだ。




「姫様、如何なされました?」




 菊宮が声を掛けると、




「いえ、少し──今日は調子が出ないもので‥」




怖々と、そう答えた。




 何とか仮名文字を書けるようにならねば、と密かに思う紫苑。




(桜は──大丈夫かなぁ)




 御簾の間から注ぐ陽の光に目を細めながら、紫苑はぼんやりとしていた。




 そして、ふと草子に視線を落とす。




「どうかなされましたか、姫様」

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