《MUMEI》

そこまで懸命に話していたリンが、急に頭を抱え取り乱した。

「怖いのよ!ゾンビだけじゃない。ケンが言ってた人間の悪意も、これから私はどうなるのかも!」
そして、泣きだした。理不尽に追い詰められ、人の悪意に怯え、自分の未来を憂い、彼女は、泣いた。

「そうか…。」
オレは息を吸った。このか弱い少女を、守るために。

「なあ、凛」

「確かに、俺たちが生きる世界は俺たちに厳しく当たる。人間は簡単に裏切るし、その悪意を惜しげもなく俺たちに向けてくる。愛と平和なんて言葉が信じられなくなるほどに。」

「社会は隙あらば俺たちを喰いものにしようと狙っているし、組織はその巨大な力で俺たちを押し潰そうとする。」

「自然は無感情に人を殺すし、それに対して俺たちはあまりに無力だ。」

「世界はな、毒物だ。触れようとすればするほど、俺たちは摩耗する。憔悴する。…心がえぐられる。」

「お前の言う通り、部屋の隅で一人震えていられたなら、そんな思いはしなくていいのにな。誰からも憎まれないし、憎む必要もない。実際にそんな生活を選ぶ人間もいる。」
オレはそこでまた息を吸った。

「でもな。」

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