《MUMEI》
水着もOK!
塚田は火竜が心配になり、本腰を入れて話した。
「火竜さん、未成年ってまだ分別がつかない場合があるから、刺激の強いのは良くないですよ」
「そんな、ありきたりな、無難な線じゃ勝負にならねえよ。趣味じゃねんだから」
「18禁にすればいいんですよ」
「18禁って言ったら期待するだろ。この内容でアダルトだったらマニアは怒るよ」
「しかし…」
塚田の言葉を遮り、火竜が喋りまくる。
「多くの視聴者が可もなく不可もなくの動画ばかりで飽きてるんだよ。過激だから興奮できるわけじゃないから。それ以上行くと18禁っていうギリギリの線。見えそうで見えないチラリズムマジックが時代のニーズであり、庶民の渇望するところだよ」
「庶民ですか」
呆れ顔の塚田に、火竜が熱く語る。
「動画レボリューションだよ。斬新な作品をみんな見たがってるんだ。そんなのアリって言われたって早い者勝ちだよ」
「どういうのが斬新ですかねえ?」
質問に答える代わりに、火竜は立ち上がると塚田のパソコンを操作した。
「斬新っていうか、オレの感覚に近いのがこれだ」
「アニメじゃないですか」
「アニメをバカにしちゃダメだよ塚田」
「別にバカになんかしてませんよ」
ヒロインが戦闘の末、敵の悪魔に組み伏せられ、両手を拘束されてしまう。しかし強気の姿勢を崩さない。
「オレだったら足も縛るな」
「あ、夏希チャン」
「わあああああ!」
火竜は立ち上がって入口を見た。だれもいない。
「テメー!」
「凄い慌て方でしたね」
「うるせえ」
火竜は説明した。
「何が言いたいかというと、ハラハラドキドキする作品がみんな見たいわけよ。これは意外と難しいんだ」
ヒロインは悪魔に服を破かれ、下着姿にされ、あわや全裸寸前で慌てふためく。
「全裸を晒したらヒロイン敗北だからな」
「ですから何の定義ですかそれは?」
下着を取られる寸前で仲間が助けに来た。
「いいか塚田。この作品は18禁じゃないぞ」
「嘘!」塚田は本気で驚く。
「当たりめえよ。助けられてヒロインの逆襲が始まる。単なるヒーローものにヤバい隠し味をきかせただけだ」
「世も末ですね」
「バカこんなのまだ序二段だよ」
「はあ…」
頭を抱える塚田に火竜が解説する。
「塚田。もしもヒロインが敵になぶられたら18禁だよ」
「なぶる?」
「まあ、上品な言い方すれば弄ばれる」
「どこが上品な言い方なんですか!」
火竜は急に真顔になった。
「最近イイ女、弄んでねえなあ…」
「あ、夏希チャン」
「塚田、同じ手は二度と食わねえよ」
「社長」
「え…わあああああ!」
火竜はまた立ち上がると、バンバン手でキーを叩いた。
「壊れます、消しましたよ」
「どうしたんですか?」夏希が疑いの目120パーセント。
「何でもねんだ」火竜は冷や汗100リットル。
「実は、あたし考えたんですけど」
「何を?」
「水着、大丈夫ですよ」
火竜の目が危ない。
「マジか?」
「無理する必要はないよ」
塚田が言うと火竜がイスを下から星一徹!
「わあああ!」
塚田はイスごとひっくり返った。
「大丈夫ですか?」
「夏希チャン、どういう心境の変化?」火竜が聞く。
「はい。作家志望の静果が何でもアリの体当たり演技をしているのに、女優を目指しているあたしが、あれはダメ、これはダメじゃいけないと思ったんです」
「そうか」火竜は感動した。
塚田も起き上がる。
「じゃあ、さっきのアニメの実写行きます?」
「塚田君。アニメって何の話かな?」
とぼける火竜。塚田はゆっくり首を横に振った。
仕事が終わり、静果と夏希はファミリーレストランで夕飯。夏希はいきなり言った。
「そうだ。このあと静果のマンション遊びに行っていい?」
「え?」
静果は、火竜との同居をずっと言いそびれていた。
「あ、あの、夏希」静果は両手を合わせる。「怒らないって約束して」
「え?」

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