《MUMEI》

「妖月、戻らなくて良いのか‥?」




 桜が問うと、妖月は頷き、




「大丈夫なのだっ」




やはり、にっこりと笑って言った。




 本当は、札を届けたらすぐに戻るよう──狐叉から言付かっていたのだが‥。 彼女はすっかり忘れてしまっているらしい。




「桜の姫っ、桜の姫も蹴毬で遊ぶのだっ」




「ぇ、僕‥私は‥‥‥」




「?」




 紫苑の訂正を、妖月は聞き逃さなかった。




「桜の姫──今──『僕』と?」




「ぇっ‥‥‥」




(馬鹿者‥)




 桜が、口には出さずに呟く。




「どうされたのだ桜の姫っ!?」




「ぃぇ、どうもして‥ませんわ‥」




「‥? ‥?」




 妖月はしきりに首を傾げ、二人は入れ替わった事がばれない事を必死に祈っていた。

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