《MUMEI》

「──妖月、おるか?」




 長屋の戸を叩くと、すぐにがらりと音がした。




「おおっ、紫苑の君っ。桜の姫もっ」




「如何なされた、お二方」




 ゆらり、と奥から表れたのは、九尾。 彼女が妖月の母──狐叉である。




「御付きの者も付けられずに──、‥?」




 何か、勘付いたらしい。狐叉は二人を見比べ、だが何を言うでもなく静かに目を伏せた。




「御用件は──」




「これを届けに」




「──それは‥」




「おおっ、私の匂袋なのだっ」




「妖月‥またお前は‥‥‥」

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