《MUMEI》

俺は進路の相談があるから、晩くまで残らなきゃいけなくなった。
安西にそれを伝えて……
帰りは真っ暗で今時期、部活動もそう活発じゃないから、閑散としていた。



「やあ、どうしたこんな時間まで?」

背後から声を掛けられた。
廊下の明かりが薄暗く、気配を感じ取れなかったせいで体が強張った。


「槙島先生……。」

顔は引き攣れてないだろうか。


「秋だからな。日が沈むのは早い。」


「そうですね。」

上手く話せているか?


「大学でも、映像作れよ。四年もあったら一つくらい映画撮れるじゃないか。」


「そんな!まだ受かるかも分からないのに!」


「編集のタイミングとかカメラの位置とか、才能を感じたよ。勿体ない、続けるべきだ。」

先生からこんなに誉められたの初めてで照れ臭い。


「いや、俺はそういうのは独学ですし……!確かに映像撮ったりするのは好きですけど!」


「映画もいいぞ。俺は洋画が好きで。そうだな、お前達の世代でも分かるのはE.T.とか、スターウォーズとかかな。」


「あ、俺も好きです。」

宇宙に浪漫を感じたものだ。
先生も目を輝かせて頷いた。


「地獄の黙示録もよく観たな。」


「それは知らないです。宇宙が舞台ですか?」


「戦争の話だよ。学生の頃、よく観たものの中の一つだった。」

先生は目を輝かせたままだった。
そんなに偉大な作品なんだ。



「観てみる?」


「え、今ですか?」


「送るよ、車で観れるからね。」


「あ、だいじょう……」

ぶ、じゃない。
なんてタイミングで土砂降り雨なんだ。


「風邪ひいたら大変だ。受験生は体が資本。」

おっしゃる通りです。

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