《MUMEI》
雅という人
「もしかして、警戒してる?」


なかなか車に乗ろうとしない俺に、雅と名乗った男はサングラスを取って微笑んだ。


…大さん風の、気品溢れる美形だった。


歳は、忍とそんなに変わらないように見える。


(でもそれだけじゃ、信用できない)


微笑む雅に、『警戒している』という意味を込めて、俺は頷いた。


「困ったな。じゃ、これでどう?」

「?」


雅は白いワイシャツの胸ポケットから一枚の写真を出した。


「…っ!」

「隠し撮りだけど、超レアでしょ」


俺は、口を塞ぎながら、何度もコクコク頷いた。


(忍だよな、これ)


そこには、初めて俺と会った時より、更に若い忍がいた。


ここまで無防備に、眠っている忍を、俺は初めて見た。


(つーか、俺、忍の寝顔、見たことあったっけ…)


忍はいつだって、俺より後に寝て、俺より先に起きていた気がする。


「俺は、忍の二つ上の先輩だったんだよ。
中等部と高等部でね。

ついでにどれだけ親しいか…

わかった、…よね。その顔は」


雅は笑顔で、再び俺に車に乗るよう促した。


俺は、ゆっくりとそれに従った。

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