《MUMEI》 居心地いい空間雅と二人の空間は、不思議なほど居心地が良かった。 女装しているから、声を出せない俺を気にする事なく (もしかしたら、気にしてるかもしれないけど) 雅は、一人で喋り続けた。 しかし、それをうるさいとは感じなかった。 雅は俺には何の質問もしなかった。 かわりに、自分自身の素性も詳しくは語らなかった。 (多分、いいとこの出なんだろうな) 雅が苗字を言わないのは、聞いたら誰もがわかる名家なのだろうと思った。 雅は、忍の家を 藤堂を そして、春日家を知っているようだった。 「まさかあいつが今は執事とはね。 確かに昔から、健気で可愛いところあったけど…」 「はい!?」 (しまった) 健気で可愛い忍を想像できない俺は、つい声を出してしまった。 「ハスキーボイスだね」 (これは、…本気で言ってるのか?) 俺の声は、ハスキーと呼ぶには低すぎて あまりにも、男らしいのに。 「もう着くよ。ほら、忍が出迎えてる」 相変わらず変わらない穏やかな口調の雅の言葉に顔を上げると 一軒の普通の民家の前に、俺のよく知る無表情で、常にクールな忍が立っていた。 前へ |次へ |
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