《MUMEI》

A常務「あぁ、お気遣いありがとうよ…」



アンパンマンは苛立ちを隠し、努めて落ち着いた口調を心がける。



余裕の無さを露呈すると、この電話の相手はつけ込んでくるからだ。



*「“お品物”も“人形”の自宅に送りつけといたからな…。」



盗聴の恐れがあるのでハッキリと口に出しては言わないが、“品物”とは、農薬まみれの小豆の現物と、改算した帳簿と取引伝票のことだ。



帳簿と伝票には、ジャム食品株式会社に小豆を発送する前に、産地を北海道・十勝地方に書き換えた痕跡をワザと残してある。



“人形”…つまり死体の身元が割れると同時に、それらの証拠品は警察によって発見され、ジャム食品株式会社の疑いも晴れるという寸法だ…。

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