《MUMEI》 再現「本当に、お前が作ってたんだな…」 洗面所を出ると、懐かしい甘い匂いがした。 「このくらい余裕だからな」 台所を覗くと、忍がホットケーキを焼いていた。 アルミホイルで器用に作られた型に流された生地は それぞれ くまさん型 星型 ハート型をしていた。 更に忍は焼き上がった生地に、チョコレートで仕上げをしていく。 (たまにあったなあ…) くまさんが、こちらを見ながらウインクしていた。 「さぁ、召し上がれ」 「こんなに食べきれない」 「仕方ないな」 忍が、星型だけは食べてくれた。 (いつも、旦那様は星型食べてくれたっけ) そして、忍は決して一緒に食べようとしなかった。 「…へへ」 「何笑ってる。気持ち悪い…ですよ」 「別に」 あの頃の俺は、忍と食事できない事が少しだけ ほんの少しだけ寂しかった事を、俺は今思い出した。 「では、久しぶりに稽古しましょうか」 「いいな」 (今だったら、互角に戦えるかな?) そんな俺の期待は 昔より強くなった忍によって、砕け散った。 前へ |次へ |
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