《MUMEI》

俺は大慌てでシートベルトを外し、トラックから降り立つ。





「だ、大丈夫かッ!!?」





オンナの方へ駆け寄る。

彼女は仁王立ちして両腕を組み、眉間に深いシワを刻み、依然として俺を睨みつけていた。


「大丈夫、…だぁ??」


明らかに不機嫌そうに唸り声をあげた。それはまさに、野良猫が、シャーッ!!っと、身体を弓なりに丸めて威嚇するときのような気迫があった。

思わず、俺は怖じけづく。
オンナはズイッと顔を近づけて、俺の襟首をむんずと掴んだ。


「大丈夫なワケないだろ、このどアホッ!!もーちょっとであの世行きだったつーのッ!!だいたいドコ見て運転してんだ、ヌケサクがっ!?」





…………なっ!?


なんだ、このオンナはっ!!


めちゃくちゃガラ悪ッ!!





あまりの言われように、つい俺もカチンとくる。オンナの腕を振り払いながら、声を荒げて言い返した。


「元はといえば、そっちが飛び出してきたんだろッ!?『道路に飛び出すな』って、ガキのとき習わなかったのかよっ!!」


「うるっさいわね!そっちこそ、プロのドライバーなら片輪走行でよけるくらいの度胸見せろよ!!」


「ンなこと出来るか、バカ!!」


「あーッ!?今、バカっつったわね!!このわたしにッ!!」


「ああ、言ったさ!何度でも言ってやるさ、バーカ!バーカッ!!」


「…ガチでムカついたッ!!このタコスケッ!?」


………!!

……!?

…!





静かな山あいで、しばらくギャアギャア騒いでいると、





「どこにいるっ!?」


「オイ!!こっちから声がするぞっ!!」




複数の男の声が聞こえてきた。


声の大きさから、そう遠くないらしい。






…………なんだ??






もう一度確認しますが、

今は深夜。公道だけど、山の中。


ひとなんか、そうそういるはずない。




不思議に思っていると。




男たちの声を聞いたオンナの顔が、みるみる内に強張った。

そして、俺の顔を見上げて、小さく呟いたのだ。







「……乗せてって」







………?


…………はぁっ??



『乗せてって』?


……って、俺のトラックにってこと??




ンなの、




「冗談じゃねぇっ!!」




俺はきっぱり言い放つ。
.

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