《MUMEI》

この…お前への複雑な気持ちが伝えられたら…。

お前と一緒になれたら、と…何度想っただろう。

まだ若かったその頃の俺はその想いに混乱してしまって、お前をひっぱたいてしまった事もあったな。



ふと気が付くと、小さい子供が俺の事をじーっと見つめていた。

「何だ…」
「アキラしゃんのにいちゃ…ココがにい…パパと同じだねぇ///」

そう言って俺の眉間を撫でてきた。

「同じか…アイツと」

目を閉じてされるがままの俺を見かねたあきらが「くるみちゃん…」と呼びかけてきた。

「くるみって言うのか…」
「くみちゃんだよっ♪」

嬉しそうにそう言ってから俺に後ろ姿を向けてきたので、あきらの所に行くのかと思ったらそのまま俺の膝に座ってきた。


それは小さい頃、俺の膝にあきらが座ってそれを俺が後ろから抱きしめながら絵本を読んでいた時の情景にそっくりだった。



こんな可愛い子供が出来て、旦那も申し分の無い身分な奴。

「いいんじゃないか…別に」

俺はそれだけ言うと、膝の上の子供を下ろして部屋を出ていった。




廊下を歩き、離れまで来ると、縁側に腰を掛けて頭を冷やした。

(俺のあの言い方…嫉妬くさく無かっただろうか…)

でも…いいご身分で、あんな可愛い子供も居る。

そして…アキラに愛されている事が一番癪に障った。





「お兄ちゃん?」

ふと、高い声のする方を見ると、さっきの子供が立っていた。

「…ついてきたのか?」

面倒な奴だな…と、思いつつ、子供の頃のアキラの行動になんとなくそっくりな所が、実際にアイツが産んだワケじゃ無いだろうが、まるで本当の親子のようだった。


「お兄ちゃんはアキラしゃんが好きなの?」

やっぱり子供は鋭いな…。

「…あぁ…だけどお前のママはお前のパパが好きなんだろ」

あの目を見れば分かる…。

アキラと奴の視線は、まるで夫婦そのものだったから…。

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