《MUMEI》

次の瞬間、


僕は翔太のお父さんの胸ぐらを掴んでいた。


泣いている人間の表情をこんなに怖く感じたことはないと、


後から美紀は言っていた。


「あんたたちのせいでな!!」


でもその表情は、


言葉を発した瞬間に変わった。


ただただ必死な人間の顔になってた。


「どんだけ翔太が辛い思いしてきたと思ってんだ!!」


言葉を発するのは、


こんなに難しいことだったかな…


「あんたたちが…


あんたたちが知らない間にな!!


翔太にはこんないっぱいの友達ができてたんだぞ!?


知ってたか!?


なぁ!?おい!!


答えてみろよ!!」


皆明らかに動揺しているようだった。


こんなにたくさんの人がいる中で、


ただ1人。


僕だけが叫び続けていた。


「翔太のこと悪く言うんじゃね〜よ!!


あんたたちが翔太の何を知ってんだ!!


最低だよ!!


いっそのことあんたたちが翔太の代わりに…!!」


そこまで言って拳を振り上げた。








バシッ!!!









ドンッ!!









僕が殴ったんじゃない。


僕が殴られたんだ。


恭介に。


「言い過ぎだバカヤロ〜!!
お前今何言おうとした!?」


冷静になれば、


言い過ぎだったと思う。


でも今、


僕が冷静になれるはずもなく、


僕も恭介を殴ろうとしていた。

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