《MUMEI》 「俺が着いてます。」 「うん、まだちゃんと把握出来てないけど大丈夫。」 窓の無い部屋に、扉が一つ。 「大丈夫です。」 抱き上げた腕に力が篭ってて、安西の方が大丈夫じゃなさそうだ。 「……そうだね。安西、ひんやりしてる。」 前髪が濡れていた。 『仲が良いんだな。』 声が聴こえた。 どこかにスピーカーが設置されているようだ。 部屋の角にカメラをみつけた。 「や、あの」 安西の腕から身を攀り離れようとしたががっちりと指を結んで離してくれない。 『いいんだよ?』 顔の見えない相手との会話はなんだか不気味だ。 「先生はその、元気でしょうか。」 ああ、考え纏まらない。 「先輩……!」 安西に叱られた。 『あは……良い生徒だ。俺ね、初めてなんだ、こんなに他人に興味が持てたのは。』 槙島先生の愉しそうな声が聴こえた。 「先生……」 『映画が好きだった。 地獄の黙示録は俺が今まで出会った作品の中で最高傑作だった。何故だか分かるかな?』 「人間の持つ残虐性を嘘偽り無く表現し、戦争そのものを問題提起している点ですか?」 『ちがーうよ、 簡単に考えよう?叫びさ、阿鼻叫喚。』 阿鼻叫喚、地獄の名に相応しい。 前へ |次へ |
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