《MUMEI》
ヤバイやつ
.







トラックを走らせながら、ずっと考えていた。








…………窃盗、売春、麻薬密売、結婚詐欺…。


あ、殺人ってセンもあるか!!








「…なにブツブツ言ってンのよ、気持ち悪いわね」


冷たいオンナの声がすぐ隣から聞こえた。俺は運転しながら、冷ややかな視線を助手席に流す。

俺の視線に気づいて、オンナは半眼で俺を睨んだ。軽蔑するような目だった。


「なによ、なんか文句あんの?」


明らかな喧嘩腰だ。





………文句あるに決まってんだろッ!!





俺はため息をつき、べつに…とそっけなく答えた。


「あんな山の中で、血相変えて男どもから逃げてさ。あげく『トラックに乗せろ!』なんて言うから、なにやらかしたんだろうとおもっただけ」


イヤミたっぷりの俺からの返事に、オンナは眉をつりあげて、なに、その言い方!とヒステリックに言った。


「まるで、わたしが悪いことしたみたいじゃない!!心外だわ!失礼よッ!?」





………失礼はどっちだ!





フツフツと込み上げてくる怒りを、俺は必死に静めた。





落ち着け、俊輔!

相手は常識が通じないんだ!

……いや!!

ヒト語が通じないんだッ!!

我慢だ!我慢しろ!!





俺は平静を装い、隣のオンナに、なぁ…と尋ねた。


「あんた、名前は?」


問い掛けにオンナはチラッと俺の顔を見遣り、睨みつけた。


「…名乗ってなんの得があるワケ?」





……………ッのアマァッ!!


ムダにツンケンしやがって!?





俺は唇の端っこを引き攣らせながら、つれねぇなぁ…と呟く。


「名前知らないと不便じゃん、お互いにさ」


「ヒトに尋ねるまえに、まず自分から名乗ればァ??」


あっさりきり返された。

また顔が引き攣る。





………が、我慢だッ!?

耐えろ、俺ッ!!





俺はハンドルを握る手にギリギリと力を込めながら、笑顔で答えた。


「………俺は、松永 俊輔」


オンナは俺の顔を見上げて、ふぅん…と唸りながら、一度瞬く。

そして言った。


「名前、フツーだね。つまんない」




…………はっ??

なに?なに言ってんの、このオンナ??

フツーじゃない名前ってナニよ??

フツーでなにが悪いんだよ??

………つか、今の発言で、
世界中の『マツナガさん』と『シュンスケくん』を敵にまわしたよ、あんた。



マジで、イミわかんねぇ……。





俺が固まっていると、オンナが窓の外へ視線を流して、つづけた。



「………わたし、稟子」





−−−−リンコ?






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