《MUMEI》 . 「へ」 「ヘンな名前とか言ったら、ブッ飛ばす!」 オンナ−−−稟子は俺の声に重ねて、ゾッとするほど低い声で言い放った。俺は、マジでビビる。 …………怖ッ!? 稟子は深々とため息をついた。ゆっくりこちらを振り返り、呟く。 「どーでもいいけど、ホテルとか立ち寄ってくれない?」 「……ホテル??」 一瞬、ありえない考えが頭を巡りかけて、否定する。 …………いやいやいや!! 仮に世界が崩壊しても、 こんな頭のイカれたオンナと、 どーにかなることはないって!! なんで?と尋ねると稟子は肩をすくめた。そして、当然と言わんばかりに答える。 「この髪の毛と、メイク、どーにかしたいのよ」 ………は?? 「なんで今??」 そんなの家に帰ってからすればいいことだ。 稟子は少しイラだった様子で答えた。 「こんな格好でいつまでもいられないでしょ?あんたバカ??」 「ウチ帰ってからどうにかしろよ。麓町まで送ってやるから」 俺がそう言うと、稟子はますます機嫌を悪くしたようだ。 そして、ビックリするようなことを言った。 「帰れないわよ、今さら!!」 …………『帰れない』?? わけの分からない俺に、稟子はたてつづけに言った。 「この時間じゃ電車ないのに、どーやって帰るのよ!お金だってないし!」 ………ああ、そういうこと。 「知るかよ、そんなの。知り合い呼んで迎えに来てもらえよ。ケータイ貸してやっから」 俺は呆れながら答えた。しかし稟子は食ってかかる。 「知り合いなんかに連絡したら、足がつくじゃない!!あんたってホント、バカね!?」 その台詞に、一瞬思考が停止する。 …………『足がつく』?? なに、コイツ。 マジでヤバイやつ?? 俺が勘繰っていると稟子は、と・に・か・く!!と一言ずつ区切るように喧しく言った。 「家には帰れないの!それに知り合いにも連絡なんか出来ない!!このまま、あんたのトラックに乗せてってもらうから!!」 …………はいっ?? 『乗せてってもらう』って、 意味わかってんの?? . 前へ |次へ |
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