《MUMEI》 . 「あっぶねーなっ!?死ぬぞ!!」 青ざめながら、俺は怒鳴った。 道路は崖沿いだ。ヘタしたら、トラックごと真っ逆さまに転落してしまう。 トラックがふらついたことで怯えたのか、隣にいた稟子も少し青い顔をして、俺から身体を離す。 それから、物凄い目つきで睨みつけた。 「こっちの台詞!!ヒトの命預かってんだから、安全運転しなさいよ、このどアホッ!!」 …………言っとくけど!! 預かったのはコンテナの荷物だけですッ! おまえは勝手に乗り込んだだけだろ!! …………怖くて言えないけど。 深夜の静かな山の中、 俺のイラつきを載せた、 トラックのヘッドライトだけが、 暗闇を切り裂き、走り抜いていた−−−。 ………そんなこんなで、 稟子のご要望通り、俺は山あいにあるデカイ道の駅に立ち寄った。ここは夜中でも施設が解放されていて、俺のような長距離トラックのドライバーは、このただっ広い駐車場で仮眠をとることも少なくない。 ………ま、ちょうど休憩しようとおもってたし。 無理やり自分を納得させて、俺は駐車場にトラックを乗り入れた。 トラックを停車させると、俺は自分のシートのうしろに置いていた予備のTシャツとタオルを隣の稟子にまとめて放り、言った。 「これ、着替えに使え。あっちに風呂があるから、入って来いよ。俺、ここでちょっと寝てるから」 稟子は俺のTシャツを見つめ、顔をしかめた。 「……これ、使用済じゃないでしょうね?」 …………どこまでも失礼なやつだな。 「嫌なら使うな」 面倒になり投げやりに言うと、意外にも稟子は素直にそれを受け取った。 しかし、いっこうにトラックから降りようとしない。 俺が怪訝そうに稟子の顔を見ると、彼女は不機嫌そうにぽつんと言った。 「……靴はないの?」 …………靴?? 俺は稟子の華奢な足元に目をやり、そこでようやく彼女が裸足であったことをおもい出す。 俺は顔をあげて、半眼で彼女を睨んだ。 「ねーよ、靴なんか」 Tシャツの替えはあっても、靴の予備なんかない。 すると稟子は平然と言った。 「じゃ、今履いてるスニーカー、貸しなさいよ」 …………それがヒトにモノを頼む態度か?? . 前へ |次へ |
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