《MUMEI》

釈然としなかったが、これ以上裸足で外を歩かせるのもあんまりだとおもい、しぶしぶスニーカーを脱ぎ、稟子に渡す。

稟子は受け取ったスニーカーをジロジロながめ、また俺の顔を見た。


「……あんた、水虫じゃないよね?」





…………マジでどついてやろうかッ!!





「ンなわけ、あるかッ!嫌なら返せ!」


スニーカーを奪い返そうとすると、稟子は抵抗し、スニーカーを両腕でしっかりと抱きかかえた。


「ジョーダンに決まってるでしょ!ホントにちっさいオトコだな〜」


ぶつくさ言いながら、俺のスニーカーを履いている稟子の姿を見て、コイツとまともに話をするのはやめよう、と心に誓った。


そう。動物かなにかとおもえば……。


スニーカーを履くと、稟子はパッと顔をあげた。


「それじゃ、行ってくる」


ハイハイ、と適当に返事をした俺を、稟子はジロッと睨みながら呟いた。


「……けど、置いて行こうなんて考えんじゃないわよ!?」


感じ悪く言うなり、彼女はドアを開けてヒラリとトラックから飛び降りた。その軽やかな身のこなしは、本当に野良猫のようだとひとりごちた。

施設から微かに漏れる、おぼろげな光へ向かって、稟子はドレスにスニーカーというキテレツな格好でトボトボと歩いていく。

トラックの中から、その華奢な背中を見送りながら、俺はため息をついた。





…………とんでもないヤツを乗せちまったな。

気は強いし、口は悪いし、ヤバそうだし。

まぁ、美人だけど。


…………しっかし、


どっかで、アイツのこと、見たことある気がする。





俺は稟子から視線を外し、腕を組んでシートにもたれた。





…………昔の知り合いとか??


いやいやいやいや!!

俺の知り合いに、あんなイカれたオンナはいない。絶対。


どっかで、会ったことがあったっけ??


…………そんな覚えもねーなぁ。


第一、あれだけ美人なら、忘れねーもんな。


それじゃ、


一体、どこで………………?





俺は身体を起こして、また稟子の姿を探した。

稟子はようやく風呂場までたどり着き、ちょうど入口から中に入っていくところだった。

光の中に消えていく彼女の姿を見つめながら、俺はまた、ため息をついた。





…………気の、せいかな。

そういうことに、しておこう。





俺はおもむろにカーラジオのスイッチを入れ、それからふたたびシートに体重をかけた。

ステレオから、けだるい女性ボーカルの歌声が流れてくる。

その音楽を聞きながら、ゆっくりと目を閉じた−−−−。












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