《MUMEI》 一斤のパンと「さあ座って、座って。」 薄暗い部屋を蝋燭がゆらゆらと照らしている。 先生が椅子を引いてくれて俺は座る、暖色の明かりだとテーブルクロスの白さが際立つ。 「ご飯を食べようか。」 真後ろに立って耳元で囁かれる、耳たぶの下らへんがざわざわした。 「はい……えと、」 カチャリ、 と金属音がした。 背もたれを跨いで後ろ手され、手錠でくくり付けられた。 「食べさせてあげようね。」 人形遊びのように、先生は俺の首にナプキンを付けて食事の支度を始める。 「先生、俺は逃げませんよ……。その、手首が痛いんです。」 金具が当たるのが辛抱出来ない。 「暴れるかもしれないじゃないか。」 香ばしい薫りと共にパンが銀の皿に盛られた。 槙島先生は向かいに腰掛ける。 「従うって言いました。」 「他人は信用しないようにしているんだ。我慢しなさい。」 ぴしゃりと言いくるめられる。 先生の持つバターナイフの先端が蝋燭の炎を映しては目を眩ませた。 前へ |次へ |
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