《MUMEI》

冗談めかして美しくほほ笑んだ稟子に、俺は全力で叫んだ。


「ふざけんなッ!!だれがおまえなんかに……」


まだ言い終えないうちに、稟子は助手席からこちらに身を乗り出して、ホントにぃ〜??とニタニタ笑った。

それから俺の股間に顔を寄せた。


…………その拍子に、


稟子が着ているTシャツの襟ぐりから、真っ白な胸の谷間がのぞいて、


…………つい、


ついついついつい!!


悲しいかな、身体が反応してしまう………。


稟子は上目づかいで、悪魔のようにほほ笑んだ。


「確認、してあげよーか??」





…………やッ!!


ヤメろォォォォォォッ!!!





「いい加減にしろッ!?」


半ば叫ぶように言って、稟子の身体を押しやる。そしてすかさずタオルケットを使って彼女の足元を隠した。

俺は稟子の眼前に人差し指を突き出して、まくし立てる。


「こんど、変なマネしてみろッ!!置き去りにしてやるからなっ!?」


わかったか、このバカ女!!と付け足してやった。

本気で怒られた稟子はスネたように頬を膨らまし、なによ…とつまらなさそうにぼやいた。


「ちょっとからかっただけじゃん。大のオトコが今さらカマトトぶんなよ、バーカ」


フンッ!と鼻息を荒くして、俺からプイッと顔を背けた。





…………どこのガキだよ。


つーか、『カマトト』ってオンナに対してつかう台詞じゃんか。





少しの間、沈黙が流れる。





稟子はそっぽを向いたまま、こっちを見ようともしない。俺は俺で、このオンナのお守りに疲れきっていて、ぐったりとシートにもたれ掛かっていた。


静かな車内には、依然としてラジオのニュースがスピーカーから引っ切りなしに流れていた。

することがないので、俺は自然とそのニュースに耳を傾ける。


《……今、話題の人気モデル、『Lee』さんが、プロダクション主催のパーティーから突然姿を消したとのニュースが……》





…………『リー』??


だれそれ??中国人??


つか、『姿を消した』って、

嫌なコトでもあったのかなぁ……。

そりゃ、あるよなぁ。

人間だもの。


つーか、俺だって消えたい。

つーか、逃げたい。


この、耐え難い現状から。





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