《MUMEI》 . ニュースは続く。 《……『Lee』さんの所属事務所は、警視庁に捜索願を明朝にも提出するとのことで……》 そのとき。 突然、そこでニュースを読み上げる声が途絶えて、代わりに音楽番組に変わった。ナントカというアイドルグループの陽気な曲が流れ出す。 怪訝におもって顔をあげると、稟子がちょうど、ラジオのチャンネルのツマミから手を離すところだった。 俺の冷たい視線に気づいた稟子は、睨みつけてきた。 「ニュース、つまんない。この子たちのヘタくそな歌を聞いてた方がずっとマシ」 また文句を言った。 …………つーか、勝手にチャンネル変えるなよ。俺のトラックだぞ。 呆れてものも言えなかった。 稟子は『ヘタくそ』とバカにしたわりに、車内に流れている、そのアイドルグループの歌を口ずさみながら、ふたたびダッシュボードをあさりはじめた。 勝手な振る舞いに、俺は眉をひそめた。 「……なにしてんの?」 咎める声も気にせず、稟子は生返事をした。 「なんか面白いモノないかなーって」 …………はぁッ!? 呆れながら、勝手に触るな、と言おうとしたとき、稟子はなにか見つけたようで、あ!と嬉しそうな声をあげた。 稟子がダッシュボードから取り出したのは、淡いブルーのレンズがついたサングラスだった。 彼女は、へー!と感心したように唸り、サングラスを眺めた。 「レイバンか。ワルそ〜〜」 バカにしたように笑う。 俺はムカついて、サングラスを取り上げようと手を伸ばした。 「ヒトのモノ勝手に触んなっつーのッ!」 しかし稟子はサングラスを死守して返そうとせず、あろうことか、そのサングラスを身につけた。 サングラスをかけた稟子は俺の方を振り向き、無邪気に言う。 「どう?似合う??」 なんか知らないが、はしゃいでいる。 俺は面倒になり、そうっすね〜とやる気のない返事をすると、突然、足のスネを蹴られた。 なにすんだよ、と文句を言ったが、稟子はあっさり無視し、バックミラーを覗き込みながらサングラスの位置を直していた。その表情は真剣そのものだった。 「…なかなか、イイかも。気に入った!コレ、貰うね!!」 サンキュー♪と呑気に言う。 …………オイッ!! . 前へ |次へ |
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