《MUMEI》
無念の降参
コングは余裕の笑顔で突進。静果が逃げずに右ローキック。効かない。ムッとした表情で左ミドルキック。掴まれた。コングは強引に押し倒す。
「しまった!」
185キロに乗られるときつい。跳ね返せない。
「ぐふふ」
無慈悲なコングは上から顔めがけて拳を振り下ろすポーズ。静果は汗びっしょりになりながらも両手で防御する。
「降参?」コングが笑う。
「だれが」強気に睨み返す静果。
海賊たちはコングを応援している。
「裸にしちまえ!」
お頭が勝ち誇った笑顔で静果に言う。
「降参したら、荒くれ男たちの生贄だからね」
逃げ道が完全に塞がれた。降参は絶対にできない。
「攻めてもいいの?」
「うるさい!」
静果は下からコングの顎に右ストレート。
「やったね」
コングの岩のような拳が、顔に雨のように降って来る。
「ああ、あああ!」
顔をガードすればボディに来る。
「あん!」
ボディを庇えば顔に来る。さすがの静果も弱気な表情。
「手加減してるのわかるでしょう?」
「黙れ!」静果は下から目に左ストレート。
「やったね」
コングは上から静果の両手首を押さえつけた。
「まずい!」
「ぎひひ」
力で静果の腕をクロスすると、片手だけで押さえつけてしまった。
「ぐはくばぎひひい!」
静果は両手を使えないのにコングは片手が自由だ。わざと拳を顔に当てる真似をした。
「降参?」
「うるさい!」静果は背中に膝蹴り。
「痛い。そういうことするとねえ、ストマッククローしちゃうよん」
コングは静果のおなかに手をやると、ストマッククロー。胃袋掴みだ。
「げぼ、げ、が、ぐうう…」
静果は耐えきれずに両足をバタバタさせて暴れた。
「やめろう!」
泣き顔だ。無慈悲なコングは笑顔で迫る。
「降参?」
「くううう…」
「降参?」
静果はブリッジ。一瞬コングの巨体が浮いた。その隙に反転してうつ伏せになる。逃がさんと捕まえにかかるコングの顔面に肘打ち!
「あっ…」
回転して脱出。すぐに立ち上がって両拳を構える静果。
「おおお!」
どよめきと歓声が上がった。お頭も微笑む。
「しぶといわね小娘」
静果は息づかいが荒い。コングは余裕の笑顔で得意の大振りフック。静果は必死によけた。ガードの上からでも当たれば終わる。
コングは左右のフックで逃げる静果を追う。このままでは当たってしまう。
静果はボディに右サイドキック。ボディは全く効かない。
首めがけて左ハイキック。当たったが静果も後ろに倒れた。そこをすかさず185キロが静果のおなかにヒップドロップ!
「あああん!」
一瞬意識が飛んだ。無慈悲なコングは静果の両脚を脇に抱えると反転。逆エビ固めが入ってしまった。
「しまった!」
コングの辞書に情けも容赦もない。笑顔で腰を落とす。
「あああ!」
顔が歪む。お頭は静果に聞いた。
「降参?」
「ちょっと待って」
「降参?」
無理だ。
「やめて、降参、降参」
コングは手を離すと、海賊たちに向かって両手を高々と上げて歓声を浴びる。
静果はうつ伏せになったまま立ち上がれない。
「さあ小娘。鬼ごっこの時間よ」
「ちょっと待ってよ」
静果は片膝をつき、海賊たちのほうを見た。コングはいない。しかし大勢の荒くれ男たちはエキサイトしていきり立っている。
「冗談じゃない」
「さあ始めるわよ。捕まったらおしまいの鬼ごっこ」
もはや万事休すか。
「待ちなさい!」
上のほうから違う女の声。皆は天井を見た。
黒装束が落ちてきて難なく着地。
「なにやつ!」
お頭は真剣な顔で聞く。海賊たちも言葉が出ない。
「夏希…」静果は目を見開いて呟いた。
夏希がお頭に言う。
「その子を解放しなさい」
「はっはっは。私に命令する気?」
「ダメなら戦うのみ」
黒装束はよく見るとチャイナ服のよう。クンフーの使い手と見た。
「この人数とやる気?」
お頭が氷の微笑。夏希は唇を噛んだ。

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